徳田安春(群星沖縄臨床研修センター長)

オリンピックは中止、さもなくば中断せよ

徳田安春 群星沖縄臨床研修センター長

理由の一つは、新たな変異株の移入リスクだ。オリンピックでは、選手と関係者、報道陣など全体で数万人もの人が世界から入ってくる。これまで水際対策も不十分だった中で、感染者の国内移入が次々にみつかっている。五輪関係者と国民との接触を断つという「バブル方式」を採用していると言うが、これだけの規模であり、厳密に完全に接触を断つことができていない。

世界では、イギリスのようにウイルスのゲノム解析をやっている国はむしろわずかである。解析している国でも数か月遅れで「これは感染力が強い」などの事実が発見されている。感染拡大地域でしかも検査や分析も十分できていない国、ワクチンも打てない、変異株が発生しているかもしれない国からの流入が当然ありうるのだ。今問題になっているデルタ株も「危険だ」と言われながら結局、検疫をすり抜け、国内での市中感染が拡大している。

バブル方式は、昨年のNBA・全米バスケットボール協会がフロリダでやった大会で成功したとされているが、五輪は全く規模が違う。東京以外にも会場が多数あり、移動のルートも多数ある。すべて本当に遮断されているとはありえない。随行する国内のスタッフすべてにチェックが効くはずもない。選手同士の接触は避けられないという問題もある。入国前の検査や手続きをどうやって確認するのかも含め、パンデミック状態の世界から数万の人を入れるリスク考えると中止するべきだ。

理由の二つ目は東京の夏における熱中症被害のリスクだ。地球温暖化は人々の健康に影響を与えてきており、毎年の夏に日本列島は熱波に襲われ、歴史的に異常な高温多湿で熱中症での死亡者が多数出ている。「暑さ指数」すなわち湿球黒球温度WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)が28℃を超えると厳重警戒とされ、熱中症患者が著しく増えることがわかっており、日本体育協会は、指数28℃以上では激しい運動は中止、指数31℃以上では運動は原則中止、という指針を出している。

2007年のシカゴマラソン大会では、数百人規模の熱中症ケースが続出したために大会は途中で中止となった。2016年に最高気温が26°Cであったロスアンゼルスで行なわれたアメリカ代表予選マラソン大会では、70%の選手のみが完走できた。今回予定の東京大会は夏に北半球で開催される大会なので、当然ながらマラソンなどの競技者の健康状態が心配になる。最新の気候予測モデル研究により、北半球で今後のオリンピック大会の夏開催はアスリートの健康状態の悪化をもたらすリスクが非常に高いということがわかった。2085年までの間で、暑さ指数26度以上の予測を逃れた主要都市は約1%のみで、28度以上でも約6%であった。つまり、ほとんどの都市は厳重警戒日に大会を主催するリスクが高いとされた。深刻な地球温暖化による健康被害からアスリートを守ることは大切である。異常気象であれば東京大会を中断することは人道的に正当化されるのだ。